i表面上における高品質ダイヤモンドエピ成長

シリコン表面にエピ成長した平滑なダイヤモンド薄膜が次世代の半導基板として注目されて久しいが、その成長制御技術はまだ確立されていない。この問題は、格子非整合系におけるヘテロエピタキシー制御技術とも関連し、薄膜・表面界面研究分野における最重要課題であると考える。そして、この解決には、従来技術とは異なるアプローチも含め、ブレークスルーを目指した新しい取り組みが必要である。 本研究は、低エネルギーメタンイオンと表面シリコン原子との衝突・反応現象を応用した、ダイヤモンドエピタキシャル薄膜成長制御のための新しい方法を提案することを目的としている。イオンビームを用いた薄膜形成は、非熱平衡状態で進行するため新規な材料設計法として注目されてきた。しかし、これまで、イオンビーム成膜過程の表面・界面現象を原子層単位で詳細に研究した例はほとんど無かった。我々は、過去6年間、極低エネルギーイオンとシリコン清浄表面との相互作用の素過程について研究を行い、シリコン(100)表面ではダイマー結合のみを選択的に切り、表面1〜2層のみをアモルファス化するようなイオン照射条件がヘテロエピ成長に繫がる可能性をつきとめるなど、従来の薄膜成長初期過程には見られなかったいくつかの特長を明らかにしてきた。このような研究成果を踏まえ、本研究では、低エネルギーメタンイオン衝突反応という新しい視点から、シリコン表面上における平滑ダイヤモンドヘテロエピタキシヤル成長・制御に取り組む。

原子状あるいは分子状イオンでは、そのエネルギーを数eVから数百eVの範囲に選ぶと、基板上でマイグレーションや凝縮効果による核形成が顕著になったり、また、基板表面不純物原子の脱離を助長したりすることが分かってきている。そして、このような効果は、イオンが持つ運動エネルギーやポテンシャルエネルギーに関係していると考えられている。しかし、この種の研究を調べてみると、イオンの運動エネルギーやポテンシャルエネルギーの膜形成に及ぼす影響を、我々がここで目指すような規定された実験条件のもとで、表面・界面の物理として系統的に研究した例は皆無である。本研究で目指す規定したイオン蒸着実験条件とは、超高真空試料室内で処理したシリコン清浄表面上に低エネルギーイオン蒸着実験である。また、蒸着表面の解析手段は表面最外層に非常に敏感な低速イオン散乱法(LEISS)であり、これを使って蒸着表面の“その場”解析ができる。このように、本研究の特色は、 低エネルギーイオン蒸着と表面・界面解析のできる特別仕様の装置 を使った、非常に規定された条件下における実験にある。このため、これまで見逃されていたようなイオン蒸着におけるエネルギーイオンと表面原子との衝突反応過程に関する徹底した実験ができる。特に、本研究が取り上げるメタン分子イオンビームでは、表面シリコン原子との衝突反応による化学結合の有無の実証、衝突反応によるサブ表面の選択的改質とそれを介したダイヤモンド薄膜のエピ成長の可能性の検討をおこなう。このように、もしそのような衝突反応過程が見つかれば、表面・界面物理の新しい分野になろう。 また、本研究は従来法とは異なる視点からのダイヤモンドへテロエピ成長・制御技術として、さらに新物質創成技術としてナノテクノロジーの進展にも貢献できると考える