研究の概要

 

=プラズマスパッタ法による透明導電性酸化物薄膜=

 

ArD2混合ガスによるプラズマスパッタ法を用いて、キャリア電子源としての酸素空孔の形成と制御による低抵抗ITOTin-doped Indium Oxide)膜の作製を検討した.全圧を1×10-3 Torr一定とし,重水素分圧PD2に伴う膜の抵抗率の変化を調べた結果,PD2が約1×10-5 Torr以下ではPD2の増加に伴って抵抗率が減少し(最小抵抗率 = 2.0×10-4 Ωcm),PD2が約1×10-5 Torr以上ではPD2の増加に伴って抵抗率が急激に増加することを見出した.このような抵抗率の変化の原因をキャリア密度およびHall移動度,膜の表面形態から検討した.その結果,PD2が約1×10-5 Torr以下の領域で見られるPD2に伴う抵抗率の減少は,プラズマ中の原子状水素による還元によって酸素空孔が形成されたことに依るキャリア密度の増加が原因であることを突き止めた.さらに,PD2が約1×10-5 Torr以上の領域で見られるPD2に伴う抵抗率の急激な増加は,プラズマ中の原子状水素による過剰な還元によってIn金属が析出し、これによるHall移動度の急激な低下が原因であることを明らかにした.

▽ ITO膜成長に伴う膜内のキャリア電子源の形成について、Ar100%プラズマによる非加熱ガラス基板上のITO膜とAr/D2混合(PD2 8×10-6 Torr)プラズマによる非加熱ガラス基板上のITO膜の電気特性を詳細に調べることによって検討した.その結果,Ar/D2混合プラズマによる膜の抵抗率は膜厚の増加に伴って単調に減少するのに対し,Arプラズマによる膜の抵抗率は膜厚が約20 nmで極小を示すことを見出した.この現象を膜厚に伴うキャリア密度およびHall移動度の振る舞いから検討し,Arプラズマによる膜における抵抗率の極小はキャリア密度の極大が原因であることを突き止めた.次に、このキャリア密度の極大現象を解明するため、酸素雰囲気での膜のアニ−ルに伴う電気特性変化を調べた。その解析過程において、キャリア総数 ,はキャリア密度、は膜厚)という変数を初めて導入し、膜成長に伴うキャリア電子源の形成を考察した.その結果,Ar100%プラズマにおける膜に見られる薄い膜厚領域に見られるキャリア密度の極大は,ガラス基板表面Siのダングリングボンドが膜の成長初期に膜から酸素を引き抜き,膜内に多くの酸素空孔が形成されることが原因であることを明らかにした.また、Ar/D2混合プラズマ成膜では,プラズマ中の原子状水素がガラス表面Siのダングリングボンドを終端するため、薄い膜厚領域においてキャリア密度の極大に伴う抵抗率の極小現象が見られないことも明らかにした.(Luo, S. N.; Kono, A.; Nouchi, N.; Shoji, F..   Effective creation of oxygen vacancies as an electron carrier source in tin-doped indium oxide films by plasma sputtering.    Journal of Applied Physics  (2006),  100(11),  113701/1-113701/7.)

  ▽ Ar100%プラズマによる非加熱および加熱(基板温度 = 260 ℃)ガラス基板上のITO膜の電気特性を膜厚の関数として調べ、加熱基板上における成膜においてもガラス基板表面Siのダングリングボンドによる膜の酸素引き抜きが薄い膜厚領域で起こり、膜内に酸素空孔が形成されていることを明らかにした.また、加熱ガラス基板上の200 nmの厚さの膜において,2.1×1021 cm-3の高いキャリア密度による9.8×10-5 Ωcmの低い抵抗率を実現した.このような高いキャリア密度による低抵抗ITO膜成長の原因について、膜厚に伴うキャリア総数の変化とX線回折法による膜構造解析から考察した.その結果、酸素空孔を多く含んだ(400)優先配向の初期成長層がテンプレートとして働き、キャリア電子源としての酸素空孔を多く含む厚いITO膜成長を導いていると主張した.(Kono, Akihiko; Feng, Zongbao; Nouchi, Norimoto; Shoji, Fumiya.   Fabrication of low resistivity tin-doped indium oxide films with high electron carrier densities by a plasma sputtering method.    Vacuum  (2008),  83(3),  548-551. )

厚い200〜300nmのITO膜におけるキャリア密度に対する酸素空孔の寄与を明らかにするために,酸素雰囲気中のアニールに伴う膜の電気特性変化を測定し、その結果をイオン化不純物散乱理論を使って考察した。その結果,as depo.状態の膜における約2×1021 cm-3のキャリア密度に対して、約1.2×1021 cm-3は酸素空孔が、また、残りの約0.8×1021 cm-3Snドナーが担っていることを明らかにした. 

▽ ITO膜の実績を踏まえ、低抵抗AZOAl-doped Zinc Oxide)膜の作製に取り組んだ。低ガス圧でプラズマが励起でき,かつプラズマ励起とスパッタリング成膜が独立に制御できる電子励起プラズマスパッタ装置の特徴を生かし,先ず、プラズマスパッタ条件を変えて作製した膜の電気特性を調べた。その結果、スパッタ電圧が低抵抗AZO膜の作製に重要であることを明らかにした.そこで、この条件を固定し、重量比がZnO:Al2O3 = 98:2(以後、2wt. %と呼ぶ)と重量比がZnO:Al2O3 = 95:5(以後、wt. %と呼ぶ)の二種類の焼結体ターゲットからのAZO膜について、膜の電気特性を膜厚の関数として調べ、膜成長に伴うキャリア電子源の生成について検討した。その結果,膜厚が200 nm以上では,2wt. %ターゲットからの膜のキャリア密度は膜厚に関わらず一定であるのに対し,wt. %ターゲットによる膜のキャリア密度は膜厚の増加に伴って減少することを明らかにした.この事実を膜厚に対するキャリア総数および膜構造(配向性,結晶子サイズ,および格子面間隔)の変化から考察しAZO膜においても、膜成長中の酸素空孔の生成が膜の低抵抗化に重要であることを突き止めた。さらに、2wt. %ターゲットを用いた場合、非加熱のガス基板上への成膜において約4.0×10-4 Ωcmの低抵抗率のAZO膜が得られることを示した.(Kono, Akihiko; Shoji, Fumiya.   Electrical properties of Al-doped ZnO films fabricated by a hot-cathode plasma sputtering method.    Materials Science & Engineering, B: Advanced Functional Solid-State Materials  (2009),  162(3),  167-172.)