Fe蒸着反応法によるSi表面上におけるβ-FeSi2形成とその表面解析

 現在、半導体シリサイドの中で、資源の豊富なSiFeから構成されるβ-FeSi2が注目されている[1]。β-FeSi2Si基板上でエピタキシャル成長が可能であること、0.83eVのバンドギャップを持ち光通信で使われる1.5μmの発光を示すなど、従来の光デバイスで使用されているGaAsに比べても、優れた物性を示す[2]。このため、光集積回路素子材料、太陽電池や熱電変換素子材料としても期待されている。

Si基板上におけるβ-FeSi2の作製方法として、主に、熱反応堆積法(Reactive Deposition EpitaxyRDE)[3],分子線エピタキシー法(Molecular Beam EpitaxyMBE)[3]やイオンビーム合成法(Ion Beam SynthesisIBS)[4]等が知られている。しかし、これらの手法による研究は着実に進んでいるが、デバイス化には膜成長法と物性制御において解決しなければならない問題が残されている。膜成長法においては、作製した膜が単相膜で表面が平坦かつ結晶欠陥が少なく、膜の物性を制御できる方法の確立が必要不可欠である。 

 本研究では、鉄蒸着反応法によるSi表面上におけるβ-FeSi2形成過程とその表面構造解析を低速電子回折(Low Energy Electron DiffractionLEED)と低速イオン散乱分光法(Low Energy Ion ScatteringLEIS)により行い、β-FeSi2成長に関わるFe原子とSi原子の挙動について調べることにした。また、テンプレートβ-FeSi2の上に、Feのみを蒸着し熱処理する過程を繰り返すことによって、厚いβ-FeSi2単相膜を形成させることを検討した.

 その結果、Si(100)清浄表面上にFeのみを約10Å蒸着するとFe膜は島状成長し、Si表面はFe膜で完全に覆われないことが分かった。この表面を約540℃で熱処理することで、Si(100)上にβ-FeSi2 (100)がエピタキシャル成長し、2×2構造表面が形成することが分かった。約540℃の熱処理によりFe膜とSi基板との界面でFe原子、Si原子の相互拡散が起こり、この2×2構造の表面最外層又は表面数層においてFe原子よりSi原子が豊富に存在することが分かった。また、約540℃で形成させた2×2表面構造をさらに約770℃で熱処理することでより鮮明な2×2構造表面が形成することが分かった。また、β-FeSi2(100)テンプレート上にFeのみを蒸着し約660℃で熱処理する過程を繰り返すことで、β-FeSi2(800)が形成していきやすくβ-FeSi2(100)単相膜を形成できることが分かった。さらに、β-FeSi2(100)テンプレート上にFeのみを蒸着し約770℃で熱処理する過程を繰り返すことで、β-FeSi2(200)が形成していきやすく、厚いβ-FeSi2 (100)単相膜を形成できることが分かった。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (a)  He ion scattering spectra from surfaces; spectrum A was from the surface with Fe deposits of 10 Å at room temperature, and spectrum B was from the surface of which 2x2 LEED pattern was observed by the annealing procedure of 540 ℃ for 30 s. (b) Li ion scattering spectra from the surfaces; spectra A and B were from the same surfaces examined by He ion.

 

 

 

 

(a) 65 eV LEED pattern of Si(100)-2x1 surface. (b) 65 eV 2x2 LEED pattern from epitaxial template film of β-FeSi2 grown on Si(100) surface. The template was formed by depositing 10 Å Fe and annealing at 540 ℃ for 30 s. (c) 64 eV LEED pattern from the template surface which annealed at further high temperature of 770 ℃ for 10 s. Because of the better rearrangement of lattice atoms, the pattern gave more sharp 2x2 structure