情報化社会の光と影

 

担当:斎藤 登

 

 

1. はじめに

 

 現在は20世紀末から始まった情報化社会のまっただ中にある。昨年7月の沖縄サッミト以後、政府はIT(情報技術)の推進を宣言し、11月には「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(資料1)を成立させた。その結果IT革命が日本中の話題となり、連日のようにマスコミに取り上げられている。

 他方、IT革命に否定的な見解も多い。ハッカーの不正侵入やITがらみの犯罪(資料2)はその一例である。

 本講義ではIT革命の光(=肯定的な面)と影(否定的な面)の二面性について考察し、21世紀は『叡智革命』の世紀とすべきであることを結論として述べたい。

 

2. IT社会とは

 

[1]IT戦略本部・IT戦略会議合同会議の情報技術基本戦略(2005年までに目指す社会像)

【教育】、【芸術・科学】、【医療・介護】、【就労】、【産業】、【生活】、【社会参加】、【行政】

の8テーマについて目標設定 ⇒ 資料3

[2]IT革命提唱の根拠

@「モノから情報へ」という変化が時代の潮流

Aインターネットの開放と普及

B米国の好況はITによってもたらされたという認識

C日米ともIT産業が好況

Deビジネス(eコマース)()が事業として始まった

E多くの知識人がIT革命の可能性を論じている

FITに強い若年層の活発な発言

G成熟経済に達して消費や投資の対象が情報関連にシフトしつつある

 

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従来のビジネス

 

生産者<−>卸業者1<−>卸業者2 <−> ・・・ <−>小売業者<−>消費者

大量物流      大量物流      大量物流          物流     少量個別物流

e ビジネス

生産者<−>消費者

少量個別物流

(インターネットによる「中抜き」)

 

         

工業社会と情報化社会の対比

 

工業社会

情報社会

技術と機能

蒸気機関            

肉体労働の代替と増幅      

知的生産力             

コンピュータ

知的労働の代替と増幅     

情報生産力     

経済の分野

有用物・サービスの大量生産    

植民地・消費購買力        

製造業             

市場経済・分業

情報・技術・知識の大量生産

知的フロンティア・情報空間・機会の増大              

情報関連産業          

共働経済

政治の分野

議会制民主政治          

労働運動

直接参加民主主義         

市民運動・法廷闘争               

社会の分野

階級社会

企業              

高度大衆消費社会

共働社会            

自主的コミュニティ       

高度知的創造社会

                        

                          (『原典情報社会』益田米二著より) 

 

3. IT社会の影 

 

[1]ITバブルの兆候

(1)     2000年後半から米国の好況に陰り ⇒ 株価の下落、失業率の増加

「生産性(労働者1人当たりの付加価値)が向上した産業は、自動車やコンピュータ製造業など一部の耐久製造業のみ。残りの産業の9割は生産性が低下」(ノースウエスタン大学ロバート・ゴードン教授の論文) 

90年代の米国の好況は日欧の「ドル高」政策が大きく関係

(2)     改善が見られない日本の不況 ⇒ デフレ(通貨に比べて商品の量が多い状態→物価下落、金詰り、倒産・失業)

 

[2]IT社会への疑問

(1)     人間関係の希薄化(社会全体の体質の劣化)←知識・技術の偏重、物と心の分離

(2)     インターネット犯罪の多発

広範な不特定多数へのアクセス → 悪用

コンピュータ・システムの弱点 → コンピュータ・ウィルス、ハッキング

(3)     教育問題

 わが国の新学習指導要領における情報教育(2002年度から、小学校ではコンピュータに慣れ親しむ活動の充実、中学校ではコンピュータの活用などの情報に関する学習の必修化) 

 アメリカの教育学者ジェーン・ヒーリーの著書「危機にさらされた心」(1998年)における次の指摘は示唆に富む:『子供がコンピュータを使って学習すると、親や先輩など、実際に生身の人間を相手に遊ぶ場合に比べて、脳の形成力がきわめて劣ることが明らかになっている』

   ・子供にとって「コンピュータゲームの野球」と「草野球」のどちらが優れているか。

   ・コンピュータやインターネットは何歳になってもやれる。

(4)     雇用問題、情報格差 ⇒ 過度の競争原理

                  (2節と3節の多くを参考文献[1]負っている)

 

4. 叡智革命を目指して

 

[1]総合的視点

  20世紀(特に後半)の「科学革命」は、人類にこれまで類をみない物の豊かさをもたらした。しかし社会の成り立ちが物質・エネルギー中心であるため大量生産・大量消費・大量廃棄の社会となり、地球環境問題という深刻でかつきわめて解決困難な問題をもたらしている。 

  他方「IT革命」は21世紀の新しい社会を予感させるものを備えている。それは物質・エネルギーから情報へ、大量生産・大量消費・大量廃棄から高品質・少量生産・効率的消費への転換を期待させるからである。

  しかし「IT」革命が『物』に変わる何かを作り出したわけではない。社会の成り立ちは「科学革命」の時代と基本的には変わりなく、人類は情報と物の洪水の真っ只中に置かれているのである。したがって21世紀は物と情報の取捨選択が重要になる。特に地球環境(自然)との調和・共生の思想が不可欠であろう。

 

[2]叡智革命を目指して

  IT革命は情報技術の飛躍的な進歩を表す現象であって、人知の進歩=叡智を意味していない。地球環境問題を始めとしてわれわれの周りには早急に解決すべき課題が山積している。今必要なのは智の革命=叡智革命である。

  精神文明的視点による新しい歴史区分(国際日本文化研究センター伊東俊太郎教授の説) 

    人類革命(200万年〜1万年前)

    農業革命(1万年〜5千年前)

    都市革命(5千年〜2千5百年前)

    精神革命(2千5百年前〜15世紀)

    科学革命(16世紀〜20世紀)

    叡智革命(21世紀〜? )

 

  科学革命

           

       精神の自由(宗教からの独立、真理の追究)、豊かな社会

          

 

 

精神の空白、物に支配された社会

 

   叡智革命

 

科学革命から叡智革命の時代へ至るキーワードは『足るを知る』である。

(新しい歴史区分に関する伊東説は参考文献[2]を見よ)

 

参考文献 

[1]柳沢賢一郎; 「IT革命 根拠なき熱狂」 (講談社α新書)

[2]伊東俊太郎; 「文明の誕生」 (講談社学術文庫)

 

 

各個人提出用レポート課題

 

『情報化社会の光と影』の講義内容について感想を記せ。

 

プリゼンテーション(グループ)用課題

  次のいずれか1課題について発表せよ。

 

 課題1]インターネットで首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp)にアクセスし、「IT戦略会議」の情報を入手してその概要を紹介せよ。

 

 [課題2]松永真理(2000年ウーマン・オブ・ザ・イヤー(世界で最も活躍したビジネス・ウーマン)受賞者)著「iモード事件」(資料:斎藤研究室)を読み、iモード誕生の成功のカギが何だったのかを述べよ。また残された問題があればそれも述べよ。

 

 [課題3]昨年1027日〜1117日の毎日新聞の記事「第4部メディア子どもが危うい」(資料:斎藤研究室)を読み、現実と仮想の狭間に生きる子どもたちの姿を紹介し、何が問題なのかを述べよ。

 

 [課題4]「IT」関連の新聞記事を1週間分スクラップし、記事を種類別に分類してその内容を1行程度に要約せよ。

 

 

 



叡智……深遠な道理を知りうるすぐれた知恵